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独り言のようなブログだよ

ちょっとした妄想と日常と少しの現実逃避とMr.Children

短篇2「残り物」

 

家族写真はいつだって 和やかに 色あせず
ひとりで暮らす部屋の中 微笑んでいるのです
妹を抱いた母親と真面目過ぎる父親
まるで昨日のことのよう まるで昨日のことのよう

 

「おはよー」

 

イヤホンに手をかけ、コツコツとなる足を止めて振り返る。あの歌が2番に入る前に、声をかけてきたのは、春歌だった。春歌の名前の由来は両親がユーミンの春よ、来いが好きだったからという理由を聞いて、俺の名前の由来はなんなのか、電話で母親に問いただした、2回生の頃の夏を思い出す。

 

そういえば、桜は咲いた。

 

「元気しとっと?さくら、きれいばいね」

 

「あのさ、関西弁の次は博多弁?」

 

「…じゃけん」

 

「いや!もういいから!」

 

就職活動の特技の欄に、どんな方便も喋れますにすれば、面接官が地方出身でも受けも良さそうだし、披露もできるという、思わずなるほどなぁと話を聞いたときには思ったが、これは地味に鬱陶しいと1ヶ月ほど続いて思っている。

 

「私のアイデンティティってなんなんだろなー」

 

就職活動というものは、本来の自分を偽ってまで、勝ち取る必要があるのか、なんてことを自分自身に問いかけて、少しだけ見慣れたスーツ姿を見て、まるでビートルズみたいだと思い込むことも少なくなった。

 

「Help, I need somebody」

 

突然、彼女はビートルズの1番好きな歌を歌い出した。球児という男がプロ野球選手で良かったように、世の中には名前と才能が一致することがある。たまに親の付けた名前通りにはいかない、少し残念な人も世の中にはいるわけで、春歌は名前負けはしない、歌声を持っていった。

 

 

「うちのボーカルになればいいのに」

 

そうぼっそと言葉が漏れた

 

「りかちゃんいるからなー!」

 

「最近、あいつらの音楽の方向性が」

 

「おっ、解散ですか?解散ですか?」

 

「言ってみたかっただけ、」

 

道端には桜の絨毯が敷かれて、その上を俺たちは歩いている。来年はこの道を歩くこともなければ、隣に彼女はいないかもしれない

 

「私さー就職1本にすることに決めたの!」

 

「結局、先生、目指さないんだ」

 

「難しいしねー…それに、先生とかなっても、生徒になにか伝えることなんてできるかわからないし」

 

両親が教師だから、なんとなく、先生という仕事は難しくやりがいがあるものだということは知ってる。特に父親には、尊敬できる面があった。やっぱり、そんな人間ではないと務まらない仕事なのだろうか?たった1人遅くまで授業を受けていた彼女にはふさわしくない職業なのだろうか?そして、彼女にふさわしい職業がこの世界にはあるのか、そして俺にも

 

春が少しずつ、遠くなっていく

 

「よっしゃー!今日も授業にバイトに頑張りますか!」

 

俺は堅苦しいスーツ姿のまま、横断歩道を歩いていく、少し前を走っている彼女の後ろ姿を見ながら