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独り言のようなブログだよ

ちょっとした妄想と日常と少しの現実逃避とMr.Children

短篇8「残り物」

クリスマス

 

俺の好きな映画はクリスマスのイギリスが舞台でオムニバス映画だった。よく父親が見てたもんだから、すっかり自分も好きになった。そんな映画を某レンタルショップで借りて2人で見た去年のクリスマス。

あのときぐらいだろう、彼女がはっきりと好きと俺に言ったのは、いつの間にか、春は終わって、俺たちはお互いの夢のために走り出した。

 

「去年のクリスマスはケーキを売ってたけど
今年の僕には コワイモノは何もない!」

 

なんて歌を歌ってた去年のクリスマスを思い出す。

いつの間に、もうあのクリスマスから1年経ったのか、東京であの子と過ごすクリスマスは叶わなかったけど、それもいい、街がクリスマスムード一色に染まっていくなかを俺は歩く、北村とりかは元気にしてるのだろうか、山さん以外はこっちにいるのに、意外と会わないものだ。

 

頭の中に山下達郎の歌が流れて来た矢先、街にはAll I Want for Christmas Is Youが流れ始めた。あの映画を思い出して、泣きそうになった。

カメラマンのアシスタントとして寝る間もなく働き続けた俺はどんどん大切なモノを撮り忘れてしまった。今こうやって、誰かの幸せをLEDの景色と共に収めても、心に空いた穴は埋まらない。

 

なんていう、悲劇の主人公を演じるのも、もう終わりにしようか、そう思って、俺はシャッターを切ろうとした。

 

「これだ」

 

自分の目にオートフォーカス機能が搭載されたのかと、思えるような出会いを、カメラの中に収めた。

 

「すみません」

 

自分でびっくりした。こんな行動的な人間だったか?そう自問自答する。

 

「えっ?なに?」

 

たった1人、まるで、誰かといなければ、消えてしまうような明るすぎる街で、黒のギブソンギターを片手に歌ってる、ジーンズがよく似合う女の子は驚いたような顔をして俺の顔を見た。

 

「リクエストしていいかな……?」

 

「弾ける曲なら全然いいですよ」

 

 「ジョンレノンの歌なんだけ……ど」

 

「So this is Xmas」

 

彼女はそのまま、俺の聞きたかった歌を歌い出した。

東京は大きくって、また、残り物になった俺は、この明るすぎる街で、運命とピントが合った。

 

君が楽しんでいるといいな

 

彼女の歌声は少し早い、春の訪れを感じた。

 

「ハッピークリスマス」

 

「ありがとう」

 

「私もこの歌好きなんだ、センスいいよ君」

 

「ねぇ、また会えるかな?」

 

「そうね、私がメジャーデビューしない限り、ここでまた歌ってるわ」

 

「ははっ……そうか」

 

「最近よくスーツを着た男の人が立ってるのよ」

 

「それは、トイズファクトリーの社員かもな」

 

「アップルレコードかも」

 

少しだけくだらないやり取りの後、俺は彼女のオリジナルソングを1曲聞いて、冷め切った、部屋に帰ってきた。

 

「名前聞き損ねたな……」

 

コントラストのあの街で

ジーンズがよく似合うあの子はこう言った。

 

「ハッピークリスマス」