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独り言のようなブログだよ

ちょっとした妄想と日常と少しの現実逃避とMr.Children

短篇9「残り物」

「へぇー私をモデルにね……」

 

相変わらずのジーンズ姿の吉岡瑞穂は唇をつぼめて、俺の顔を睨みつけた。

 

「君を撮りたいんだ」

 

「自分で言うのもなんだけど、すごいブサイクなわけでもないけど、すごい可愛いわけでもないよ私の顔」

 

「可愛いとか可愛くないとかじゃなくて、君の歌ってるときの表情とかそういうのがすごくよかった。」

 

俺は彼女と付き合った後遺症として、積極さが少し増したらしい。

 

「まぁ、勝手にしてくれていいよ、私は歌うだけだし」

 

「ありがとう」

 

東京の安っぽいチェーン居酒屋で、新年会でもしてるであろう大学生グループの隣で俺たちは夢を語り合った。

 

「へぇー桜井ベース弾けるんだ」

 

「趣味レベルだけど、吉岡はいつからギターを?」

 

「中学のときだよ、斉藤和義がカッコよくて、買ったの」

 

「確かに、あのギターは影響受けてるのまるだしだな」

 

「悪いかしら」

 

「いやいや、高かっただろうなぁって」

 

「私さ、欲しいものはなにもなかったからさ、お金が全然かからない子だったの、だから、ギター欲しいって!あの人と同じのがって言ったら買ってくれたの」

 

「なるほどな」

 

「ほんとー誰か見つけてくれないかな、このまま残り物で終わりたくないな」

 

「同じだな……」

 

「なにが?」

 

「なにも」

 

「ふーん……」

 

バンドとかは組まないの?」

 

「私、人付き合いがすごく苦手でさ……昔から」

 

「そうなんだ」

 

「だから、自分でもびっくりしてるよ、桜井とこーやってお酒飲んでるの」

 

「確かに、飲んでくれると思わなかった。」

 

「桜井は凄く、接しやすかった。クリスマスの日に出会ったあのときから」

 

「俺だってこんな積極的な人じゃなかったんだけどな」

 

彼女との夜は、久しぶりに時間の流れが早くなって、まるで楽しかった大学時代と同じような時の刻み方をした。

 

「私の歌は絶対誰かに響くんだぁぁあ!」

 

店を出て、帰り道、吉岡は突然叫びだした。

 

「俺の写真も絶対誰かに響くんだぁぁあ!」

 

こんな恥ずかしいことする人間だったかな、いつも、人より一歩後ろに歩いてた人間だったのに

 

「あのさぁ、桜井!私さー頑張るから北村も頑張れ!」

 

「お……おう」

 

「ちゃんと歌聴きに来いよ!それとさ、今度一緒にスタジオ行こう、北村やりかって子にも会いたいし」

 

「オッケー弦張り替えとく……」

 

「それじゃ、私はこっちだから、またね」

 

「あのさ……いいかな」

 

「ん?」

 

音のない静かな東京でカシャと音が響いた。

 

「盗撮」

 

「ははっ」

 

「つか、綺麗に写ってるの?」

 

「さぁ、現像しないとわからない」

 

「なにそれ、スマホの方がいいじゃん」

 

「俺たちの未来みたいで、素敵だろう」

 

「シラフなら、縁切ってた」

 

「ははっ、またな」

 

「うん!必ず歌の日は来てね!」

 

「早い目に仕事終わったらな」

 

「待ってる!」

 

そう言って俺たちは帰路についた。

なんとなく、人生が少しだけ、いい方向に進みだした気がした。東京の夜